僕達の失敗

 

 

 122日、長野は例年より10日遅い初雪を迎えました。写真に写っているのは初雪ではありません。防疫のための石灰散布で、石灰に覆われた信州BBファームの農場です。遠くの山々は、雪帽子を被っています。

 

20191126日 午後>

 信州BBファームの在庫豚は、種豚群30頭、子豚肉豚育成豚群200頭に対する豚コレラのワクチン接種が長野家畜保健衛生所の手により行われ終了しました。ワクチン接種地域に指定された長野県でも一番最後の接種農場となりました。

 弊社では、種豚生産が事業のメインで、顧客は北海道から鹿児島まで全国です。精液も自農場のAIセンターから全国に発送してきました。

 この枠組みが、昨年からの岐阜県での豚コレラの発生、今春の愛知での大発生、そして7月、長野でのイノシシの豚コレラ感染、9月の県内養豚場での感染確認で情勢が大きく変わりました。

 信州BBファームでの種豚生産及び販売の中止は、養豚雑誌等に広告しておきました。これに関しては、県外で3件ほど種豚の系統を維持増殖してもらうことを前提に話がまとまりかけていました。しかし、いずれも6月以降の豚コレラの急速な中部地区を中心にした拡大で中断、延期とされました。

 決定的になったのは、豚コレラワクチン接種の「予防的」実施が全国ではなく感染確認県で決まったことです。そして、接種地域(=県)からの非接種地域への豚の移動は、「感染がわからなくなる」ことから、禁止とされ、種豚のみならず、精液の移動も禁止されました。

 その中で、夏以降は、種豚精液の販売がすべて止まり、在庫豚が増え、経営を圧迫していきました。その中で、種豚生産農場でも「高度に衛生体制が整備された、SPFあるいは実験農場に近い農場」は、接種を免除されかつ全国出荷できるとされました。

 この規定に基づき、夏から農場の現場努力を柵の設置、石灰散布、作業動線明確化を表示した写真文章をおくり協議要請しました。それに対する農林水産省の回答は以下の通りです。

 

「高度の管理というのは、少なくともシステム化され管理手法や、閉鎖系での飼育が必要であると考えられる。それに該当しない施設はワクチン接種を免れないと考えてさしつかえない。ただ現時点でまだ農水省からの『高度な管理』に関する判断基準を明示することは出来ず、結論が出るまで時間がかかる見通しである。貴農場は設備的に高度の管理といえる状態になく、長野の隣接県すべてで陽性イノシシが浸潤している状況で判断保留のままワクチン非接種の状態を継続することは極めて問題がある。」

 

 要するに、開放豚舎での種豚生産は、ワクチン接種地域では、非接種での全国出荷は認められないということになりました。

 私達は、種豚生産者の仲間たちと全国でのワクチン接種の実施、それにもとづく種豚流通の実施を要求してきました。しかし結果は、実験豚舎、あるいは「完全」に外見上防御できそうなウインドレス豚舎以外は、国は認めていません。

 

 今回、岐阜、愛知、長野と高度の防疫体制をとっていた飼養施設で相次いで感染が確認されました。また、完全なウインドレス豚舎でも発生は防げていません。疫学(感染の原因究明を行う病理学)でも全然解明できないものが多数でてきています。

 「城は、多少ぼろでも、それを守ろうとする人たちの意思が強ければ、簡単には、落ちません。反対に、守る側が無理だ、もうだめかもと思うとどんな立派な防備を持った城もすぐに落ちる」といいます。今回の豚コレラの感染原因の多くは野生イノシシといわれます。しかしそれがどのように農場にウイルスを持ち込んだかは、解明されてません。

 私は、1995年養豚の生産現場から生まれた「豚コレラワクチン」接種中止の運動の一翼を担わせてもらいました。

 ただ、今この事態を迎え思うのは、「ワクチン」の呪縛から逃れられなかったという思いです。ワクチン接種中止を求める運動のキーポイントは、3つありました。

1.      ワクチン接種は、豚コレラの撲滅を求めるもので、その全国接種の成果で国内で養豚場由来のウイルスはほとんどなく、接種の必要はない

2.      接種を早くやめないと、不顕性(症状がはっきり現れない)の慢性豚コレラがあらわれ、豚コレラの撲滅をより困難にする

3.      ワクチン接種が各都道府県ごとの縦割りで行われ、ワクチン接種の義務が利権化され畜産関連の外郭団体=(私達はこれを『ザ・トンコレラ』と呼んだ)の肥大化に歯止めがかけられなくなる。また、都道府県ごとのバラバラの対応では、素早い効率的な防疫体制が組めない。そのためにも、豚コレラに対する防疫体制は、欧米並みに国家防疫として、都道府県という行政の枠を超えて中央の専門官の手で行うべき

 

 しかし結局、ワクチンの接種中止の判断が各都道府県ごととなり、最後の鹿児島県がワクチン接種を中断するのに4年ほどかかり、この中で23の慢性豚コレラ、国家防疫の問題や議論は立ち消えとなってしまった。

 

 この豚コレラのワクチン接種の問題は、深い傷跡を残し、これからも、日本の養豚業界を疲弊させる要因となる。その例を挙げれば、

 

1. 豚コレラによる殺処分、移動禁止による国内豚価の高騰の期待はかなえられなかった。  反対に、輸入豚肉が精肉売り場の半分近くを占めるようになり、消費者の輸入豚肉に対する抵抗も無くなり、一部では国産豚肉よりも高い輸入豚肉が現れている。

2. 目に見えないウイルスを相手にすることから、必要以上に警戒が強まり、生産者、流通業者の情報分断が強まり、それが結果として生産者の意欲を弱めた。結局、農水省の構想する「高度」な農場とは、工場生産に近いものとなり、農場の新設維持には莫大な資本が必要で、家族経営や新規就農での庭先での小規模養豚を不可能にして、規模拡大と工場化を産業の核としている。

  

 ここで、信州BBファームも来春廃場を決意しました。限られたワクチン接種地域での種豚・精液販売がままならず、現在の母豚20頭の規模では肉豚生産では経営の維持が難しいと判断しました。それでも、貴重な英国黒豚BBの血液を広めるべく、最終販売を行いたいと思います。