仏作って魂(たましい)入れず!

「皆さんそうされてるようで」のアニマルウェルフェアではなく、現場からの積み上げのアニマルウェルフェアを!
                                         2023年8月

 

アニマルウェルフェア(AW)に対する議論が少し高まってきているようである。日本養豚協会(JPPA)のなかでも、アニマルウェルフェア推進委員会が組織され、AWの指針について、OIE基準にもとづいたものでの一般的な管理をしていれば問題ないことを確認し、農水省の答申待ちとしている。

AWに関しては日本の生産者の姿勢は、海外からくる面倒な災(わざわい)程度にとらえているのではないだろうか?何回も提起してきたことだが、欧米でAWが唱えられ社会的に広がってきたのは、家畜のストレスを減らすことで、現場での成績向上、生産物の質の向上がなされてきたからだといえる。と畜処理方法も炭酸ガスで眠らせてからの処理でふけ肉は激減している。

尾っぽ噛み防止のために断尾しなければならないのは、密飼、不適切な餌・水の給与が理由であり、抜歯で闘争するのは、郡編成の不手際である。同じ種豚群、餌、設備を使いながら欧米と日本では出荷で2頭差がつくのは、育てている豚に対する飼養管理側の姿勢からではないだろうか?そしてもう一つは、基礎データーがないこと、それによる教育啓蒙の欠如ではないだろうか?

私はヨーロッパに何度も渡り、AWのお手本とされていた放牧養豚を観て来た。それと同時に、公的機関として、AWの課題と現場で有効かどうかを検定する試験農場を幾度か訪れた。このような検定農場は、ドイツ、オランダなどにいくつかあり、国際獣疫事務局(OIE)や 欧州委員会により管理運営がなされていた。

運営は、民間農場とほぼ同じ体制でなされ、例えば分娩ストール飼育の是非、断尾、飼養面積、空調など各種のデーターが集められ。加えて、見学通路も設けられ実験を自由に見られる体制になっていた。しかも農場自体も経済性が求められ、当時でも年間出荷で1母豚25頭程度はキープしていたと記憶している。このような中から、分娩ケージにおいては、フリーではなく従来の閉じ込め式ストールの使用、交配後42日間はストールでの飼養許可等がAWの指針の中でも認められていた。

一方、日本では、国、県等で多くの畜産実験農場を有しながら、このような、基礎データーを収集、公表するシステムがまるでそろっていない。その基本姿勢は、「進んだ官が遅れた民を指導する、民では取り入れが難しい先端情報を『教え指導する』」という、100年以上も前の明治期以来の姿勢である。しかし、インターネットによる世界の情報の変革に代表されるように、スマホ1台で世界の最先端情報に接することができるようになった現代ではもはや、このような体制姿勢は無意味である。

一方、抜歯、断尾などでどのように生産性が変わるかなどの課題は、地味ながらも手間と時間をかけて取り組んでほしいことである。抜歯などは、おそらく日本の現場で3040%は実施されなくなったという印象を受けている。これは、作業の手間もさることながら、品種、飼養管理方法、給餌プログラム、設備などさまざまな点でストレスの軽減が図られ、豚同士の激しい闘争が減少してきたためではないかと思われる。

豚の品種、飼養管理環境、ストックマン教育などいろいろな要素があるが、基本はストレスの少ない環境、AWはストレスを軽減させ成績を向上させるという視点である。これを解明する試験、検証を行い現場に還元することこそが、現在の試験「研究」機関の役割ではないだろうか。

 



養豚のAWの原点放牧。養豚の発祥地、英国では、養豚の40%は、放牧で生産されている。

フリーの分娩ケージでの飼養実験、2004年の実験検定農場での写真。ドイツでの事例。