「コロナ敗戦」「豚熱(豚コレラ)敗戦」


「目標の移転」、 行政が設ける規則は目標実現するための手段に過ぎないいのに、いつのまにか規則の遵守が最大の目的に置き換わる現象

 年末になると128日の太平洋戦争の開始にあわせ、その敗戦にいたる原因の分析がなされる番組、本が出版されてきました。2021年は、日本ではコロナウィルスCOVID-19の蔓延で始まり、収束が見えたと思ったら今はオミクロン型ウィルスの侵入で再感染が騒がれはじめています。コロナで始まり、コロナで終わりそうですが、今いわれているのは、コロナ対策に対する行政の施策の遅れと失敗に対し、これは、コロナウイルスとの戦いに対する敗北=敗戦ではないかとの声です。

 「コロナ敗戦」という言葉を生み出したのは、日本経済新聞の1122日の1面でした。矢面に立っているのは、厚生労働省で、「前例主義」「対応への遅れ」「権威主義」など総じて官僚主義の弊害が、収束の見えない事態を引き起こしてきているとの指摘です。そこで、強く指摘されたのは、「問題解決のための手段である規則が、逆に目的化絶対化され現場での対応を遅らされている」現場を見ない傾向です。

 その例として10月にコロナの自宅療養者が増えたとき、この情報を「かかりつけ医」にまわし対応できないかと厚生省に求めたところ「患者からの要請がないと出来ない」「規則でそうしなければならない」結局、重篤な病状の患者から同意を得ることができるわけでもなく、何人かの患者が放置され重症化、死亡にいたるケースが発生しました。

 第二次大戦でも、硬直化した指揮命令系統から出る「軍令」が絶対化され、無理な作戦で犠牲が出され敗戦にいたったことは、広く語られてきていることです。

 行政組織は、総力を挙げて「規則」に基づき動きます。しかし、それが的をついていれば、成功しますが的外れであれば失政=敗戦となります。

 宮城県でワクチン接種済みの、衛生管理でもしつかりしていると思われる、大規模養豚場でワクチン接種した子豚の豚熱感染で、1216日に系列農場で飼育されていた豚1万頭以上の殺処分を完了したと発表されました。

 さらに、近隣10㎞以内の養豚農場はワクチン接種済みなの出荷、移動等の制限は受けないとのことです。PIGJAPANのコラムで何度も述べましたがワクチン接種豚に対する発生農場における検査、隔離無しの殺処分は、飼養豚に対する虐殺といえます。

かつての成功体験が柔軟な対応の手足をしばる!!

①クリスタルバイオワクチンへの固執

 日本には、1968年(昭和43年)当時の熊谷哲夫先生が中心になってモルモットを使った豚コレラ発症を防ぐクリスタルバイオワクチンを開発、その効力は抜群で3日ほどで抗体ができ打つことにより発症はなくなり豚コレラの発生は激減しました。一方で熊谷先生は、ワクチンが長期にわたり使用されれば、豚コレラウイルス自体が変異して、発症=死亡にいたらない「慢性豚コレラ」がでてきて、感染を拡大することを警告されていた。

 その提言に基づき、豚コレラワクチンの全国一斉接種が計画され、実施の為の全国組織が行政主導でつくられました。その努力もあり1994年から豚コレラの発生はみられなくなりました。そして各都道府県ごとに豚コレラワクチンの法律による強制接種が中止され、全国でのワクチン中止となり、2007年に国際的にも日本は豚コレラの清浄国と宣言されました。

 しかし、2018年、岐阜県で海外株による豚コレラが再発性、その媒介は感染しても死なない野生イノシシとされ熊谷先生がおそれていた「慢性化」の道をたどってきました。行政はネーミングが悪いと豚コレラを「豚熱」と言い換え、後手後手の「対応」に終始しています。その間に九州、北海道を除きすべてがワクチン接種地域となってしまいました。


1995
年、生産者が主導で 豚コレラ清浄化運動を開始し、ワクチン接種中止を各地で訴え、この動きと行政、衛生関係者の協力で、ついにはワクチン接種中止となりました。 

②マーカーワクチンに対する消極的評価がクリスタルバイオワクチンの絶対化を生み感染の拡大を助長する。

 コロナウイルスとの戦いではオミクロン株の出現でワクチンは、変異するウィルスとの戦いでその効能は効力が落ちる方向に変化せざる得ないことが明らかにになりました。現在のクリスタルバイオワクチンは、昭和43年(1968年)に国により作られ、打てば、3日間で抗体を持ち防疫効果を持つとされている優秀なワクチンでした。この効力を基に、全国一斉接種、その後の発生がないことを確認してワクチン接種を中止、清浄化が2007年国際的に認められました。

 今回の豚コレラ再発に深刻な影響を及ぼしているのが豚熱に対する農林水産省の姿勢です。まるで、2007年まで続いた「ワクチンによる豚コレラ撲滅対策事業」の達成に引きづられ、その延長で 新局面 野外感染イノシシによる養豚場での飼養豚に対する水平感染に有効な手が打てずにきています。これまで、宮崎県で2010年に発生した口蹄疫に対する豚の殺処分22万頭を上回る27万頭の「ワクチン接種農場」での法規にのっとった殺処分が行われ、収束への道が見えてきません。

2000年代と今日を比べると次のような大きな違いがあります。

1.農場数の急減、衛生プログラムの普及

2.空気感染し、感染力の強い口蹄疫と異なり、豚熱は接触感染で伝播しワクチンが今回問題になった接種地域では飼養豚に日常的に使われ少なくともワクチンは、強制義務で接種されている。

3.規模拡大で農場の分業化が進み、施設ごとに分離できるようになっていることが多く豚舎ごとの衛生管理が可能となってきている。

4.PCR エライザーなどの分析手法で、感染の状況を客観的にすばやくみられるようになった。

5.近年、EU、アメリカ、韓国などで遺伝子組み換え技術を使った豚コレラマーカーワクチンが開発され、OIE(国際獣疫機関=世界の家畜衛生の指導、認定機関)もその使用を推奨しています。特にマーカーワクチンの場合は、DIVAとゆうワクチンによる感染と野外ウイルスとの判別ができるので、マーカーワクチン使用の場合は、その国で野外感染が確認されなければ、使いながらも短期間で清浄化宣言できるとしています。

 これに対し、日本の農林水産省は、ヨーロッパ開発のマーカーワクチンを、「4頭の国内試験」で防疫効果はあるがDIVAは、認められないとしています。国内での豚熱(豚コレラ)マーカーワクチンの開発を目指すが、15年ぐらいかかるとしています。

問題点

 まず、ワクチン接種は、「家畜防疫員」指定され訓練を受けた獣医師とされています。獣医の免許をもっていても、「防疫員」にならなければワクチン注射は打てません。現在農場では、サーコ、PRRSなどの家畜伝染病予防法以外のワクチンは、農場の従業員により接種されるのが、一般的です。生まれた子豚に対する鉄剤、下痢の予防治療のため、数々の注射が作業として打たれています。しかし、家畜伝染病予防法では、「専門知識」を持った獣医でなければできないとの枠組みになっています

 しかし、注射を豚に打つという行為自体、現場の作業員でも十分に出来る作業です。宮崎の口蹄疫での「殺処分」も作業の迅速化の為、法規にはない農場の関係者、屠畜場職員らを動員早期に殺処分を終了させました。この「家畜防疫員」に限定した接種は、ワクチンの100%接種を前提に組まれた制度で、現在慢性疾病の危険性が叫ばれているなかでは、1日のうちに複数農場をまわるのは、むずかしくなっています。

 これが、ワクチンの手当ての難しさとともに、「適期の接種」をむずかしくしています。海外特に韓国ではワクチンの無いアフリカ豚コレラの国内での感染とゆう事態に遭遇しながらも、これを北朝鮮国境地帯で封じ込めています。

 韓国では、2000年から、豚熱ワクチンの農場での2回接種が義務化されています。日本で問題となっている1回接種ではなく、農場での3060日の子豚、および飼養されている種豚にも接種が義務付けられています。また、農場に配布されたワクチンは、無料で農場での作業員が打つことになっています。

 さらに韓国では、政府機関で開発した豚熱マーカーワクチンを民間の製薬メーカーに渡し、これにより国産のマーカーワクチンが製造され、このワクチンは有料ですが、すでに20%程度のシェアーを2021年には占めています。

 PIGJAPANの前回の報告にも、このことを詳述しています。このワクチンは、ワクチンショックもなく、加えて、野外感染とワクチン感染かを識別できるDAVIが、可能としています。これは、ASF(アフリカ豚コレラ)感染地域の野性イノシシに対する経口投与ワクチンとして大規模に使われ、ASFとの判別、豚コレラの野性イノシシに対する感染がないことにも効力を発揮し韓国養豚をASFから守る防疫に貢献しています。

 さらに、まさに今月に入ってからのニュースですが、韓国での豚熱ワクチンの製造においては、植物由来のバイオ技術も開発されており技術でも格段に進歩しています。これに対し、日本の家畜衛生をつかさどる農林水産省は、遺伝子組み換え豚熱ワクチンは、韓国のものは、検討も、取り入れる動きも一切ないようです。

③生物学的ワクチン製造には限界がある

 日本のクリスタルバイオワクチンは、マウスの生体から取り出した組織で培養し、ワクチン製造の過程で多くのマウスが供用されています。その結果その生産能力も限界があり、接種地域での現場での2回打ちや、九州、北海道の豚に対する接種が始まるとワクチンが足りなくなるとの問題がおきています。一方、世界では国ごと地域ごとに豚熱ワクチン株を独自に選抜しこの過程で遺伝子組み換え技術をもってマーカーワクチンとして作られています。

 11月の群馬、12月の宮城、さらにこれまでの動きを見ると、ワクチンを打った豚であり感染を防げないとしています。打っても抗体が上がらないから防げないと説明がなされていますがほんとうにそうでしょうか?コロナウィルス感染でも、人間に対する丁寧確実な接種でも、ブレークスルーとゆう説明で再感染する例が出てきています。

 さらに、現在国内で動いているウィルスはもともと日本で動いていたウィルス株ではなく、中国などで見られるアジア株で、これと国内製造のクリスタルバイオワクチンとの製造過程における検討は、示されていません。

 「単に打ち方が悪い、たまたま抗体が下がった」とゆうだけでは、回答にならないと考えます。豚コレラ撲滅対策事業では、少なくとも飼養豚の70%にワクチン接種がなされれば群として農場の免疫が獲得できるとされていました。

 発生農場では、殺処分前にサンプル的に抗体検査がなされています。離乳から70日令ぐらいまでは、多少抗体の上がらないものも見られますが、それ以外のステージの豚は、種豚を含め抗体が上がり、豚熱に対する感染防御が成立しています。感染可能性がない豚達を殺処分することは、「発生農場の豚は擬似患畜」として 殺処分するとゆう規則の機械的運用でしかありません。無罪なのに、そこにいるだけで殺処分される豚達のことを考えると、豚をかつてきたものとして絶望的な怒りをおぼえます。

 前々から訴えていることですが、感染可能性のある未接種、発生豚舎での早期殺処分は防疫上しかたないと思いますが、発生農場においてワクチン接種済みの豚に対しては21日の観察期間をおいて、PCR、エライザー検査で抗体陰性確認のうえ、生産サイクルにもどすべきです。 

1995年、生産者団体で作成した共通のシンボルマーク

最後に

豚熱 豚コレラから日本の養豚産業を守るための提言

1.豚熱マーカーワクチンの海外からの緊急輸入とその使用VAVIの検討でウイルスを追い詰めていこう!

 現状のクリスタルバイオワクチンによる防疫体制ではVAVIが判別できず、野外感染か或いはそれ以外のワクチン等による感染か判別できません。つまり、感染源を特定できません。つまり何年も豚コレラの発生の不安からのがれられません。レーダーを止めて爆撃機の侵入を迎え撃つようなものです。

 「信用がない」とし退けている韓国産のマーカーワクチンは、経口ワクチンも開発されコストもDAVIのできないドイツ製とものと比べ25%以下です。予算不足?で経口ワクチンが撒けないと農林水産省は言っていますが、よりよいものが隣国にはあるのです。

 DAVIが判別できれば、感染経路をしぼることができます。また、現状のクリスタルバイオワクチンではマウスを製造で使います。このワクチン製造は、アニマルウエルフェアーの面でも問題となる可能性があります。マーカーワクチンは、バイオテクノロジーを用い培養でできます。さらに、植物で豚熱ワクチンを作る技術も海外では実用化されています。

 これら培養されたマーカーワクチンは、リアクションもすくなく出荷日令も1週間ほど短縮できると報告されています。少なくともコロナウイルス感染症の場合、厚生省は最近では特例で国内での検査を省き海外で開発されたものを積極的に採用しています。

農林水産省の家畜衛生担当は、なぜか、国際的な豚熱マーカーワクチンを開発した隣国韓国やヨーロッパの動きを無視し、かといって国内での開発に力を入れるかというと、メーカー丸投げで、主体的な開発に眼を向けず予算もわずかなものです。

 豚熱=豚コレラの感染防止に目処が立たず、感染したら機械的な殺処分では、養豚経営の規模拡大、新規参入増頭をしり込みさせるものがあります。防疫のためのマーカーワクチンVAVIとゆう手段が海外にあるのにこれを活用しない行政当局の姿勢は、養豚産業の振興、あるいは、産業を守るとゆう姿勢は見られず、現状維持=じわじわとした後退(煮カエルの例え)になると考えられます。少なくとも、マーカーワクチンに対する検定試験を至急行い、その使用の可能性を考えるべきです。

2.豚熱発生農場での一律の機械的な殺処分をやめ、ワクチン接種豚の検査21日以上の経過観察に方向を変えるべきである!

 隣接農場でワクチン接種済みなら、何の規制もありません。現在発生農場ではPCRで抗体が100%になって発症する可能性がゼロでも殺処分対象となります。

 韓国では、多くの発生を検討した上で、ASF(アフリカ豚熱)ワクチンもなく空気感染するため、これまでは周辺3kmの隣接農場も含め殺処分でしたが、今後は、厳密な疫学調査の上、殺処分の範囲を今後、発生農場に限定しようとしています。機械的ではなく、まず現場を観る。これが基本の姿勢です。

 現在心配しているのは、豚コレラ撲滅運動を行っていた頃と比べ現場からも獣医医療関係者からも、声や意見があまりに上ってこないことが心配です。

 賛成、反対どちらでも、日本の養豚産業の未来を賭け、活発な議論が行われるべきです。沈黙は結局、ずるずるとした衰退の道を歩むだけになると思います。


ご御意見、ご感想をお寄せていただければ幸いです。
e-mailyohtonjk@mxh.mesh.ne.jp
電話090-3138-0947  山下哲生